「もう一回!」
明らかにベースの音がずれる。ベースを担当する東里琥珀の走りすぎた演奏が、その掛け声の合図となったのは明白だ。琥珀の臨機応変ともとれるアレンジに、付いていけない南川凪咲。担当する楽器であるドラムのリズムも狂ってきた。どちらに合わせればいいのか、とキーボード担当の北園繰実は迷っているようだ。
声の主は凪咲だ。叫ぶように怒鳴った声は響きやすいスタジオに消える。
「……はい、もう一回」
俺、ボーカルとギターを担当する西門皐月は、演奏を止めて最初から音源を流す。パソコンに無線で繋いだ小型イヤホンから流れる音楽は、また繰り返される。
アイどる☆ふぇすティバル――。一年に一回開催されるその大会は、アイドルにとって一番最初の目標となる。優勝すればメディアからの依頼は殺到、世間からの憧れの眼差しを受け一躍トップアイドルになれる。
しかし、アイドル全盛期の今、優勝することは容易いことではなかった。芸歴四年から十年のアイドルが参加できるが、芽が出ないまま賞味期限切れになったアイドルは数知れない。アイどる☆ふぇすティバル――通称「どる☆ふぇす」――で成果を残すことがアイドルとして生計を立てる最初の一歩であり、最大の難関だ。
どる☆ふぇす常連の俺らはもちろん前回も優勝。そして、その本番を控えた俺らは練習に励んでいた。
「……ねえ、ちゃんとやってよ!」
一回も完奏できないままリテイクが五回続いた。ドラムチェアがガタッと音を立てて倒れた。
凪咲が痺れを切らしたようだ。その原因はメンバー皆解っている。琥珀のやる気が明らかに無い。凪咲は俺らについていこうと必死に食らいついているせいもあって、やる気が感じられない琥珀に嫌気が差したようだ。
バンドル――正式にはガールズバンドアイドルなんて名乗ったりもするけど――として日々テレビ、雑誌、その他媒体に多数出演できるほど有名になった。楽器が得意ではない凪咲が、必死になって俺らに付いていこうとしているのに、元々才能がある琥珀が悠々と演奏をこなしていくのは面白くないに決まっている。
「そんな言い方しなくたっていいだろ」
凪咲のその気持ちも、何回も同じところを繰り返す反復練習を嫌がる琥珀の気持ちもどちらも解る。だからつい言ってしまった。
「な、なぎちゃん。落ち着いて?」
繰実が凪咲を宥めようと、凪咲の肩に手を添えた。それで少し冷静になれると思ったが、一度出してしまった感情を戻すことが出来ず、意地を張ったまま謝ることなく俯いた。
凪咲の口調は、琥珀に対してだと特に強い。メンバー皆がピリついているこのレッスンという空気感の中で、凪咲のその言い方は火に油を注ぐようなものだ。
「だって、琥珀がさ」
凪咲が顔を上げて、気迫の表情で俺を見た。まずい、結構これは感情的になっているな……。
俺は凪咲が感情に任せて演奏した時の悲惨さを知っている。その場の演奏の雰囲気や盛り上がりではなく、楽譜を意識して叩かないと絶対にリズムがズレる。そのうえ少し集中が切れてミスをした後の修正が出来ない。琥珀に対しての苛立ちを隠し切れず、小さなミスが続いている。本人がリテイクの原因になっていることに気が付いているせいで、凪咲の心の余裕はもうほとんど残ってなかった。ドラムはバンドの土台であり要だ。小さなミスでもどる☆ふぇす本番ではかなりの命取りになる。
凪咲が名前を呼んだせいで、その場にいる全員の視線が琥珀へ向く。その視線はただの眼球じゃなくて、怒りや呆れも含まれた瞳だった。
「……はっ」
当人はそっぽを向いて面倒臭そうに小さな溜息を付いた。
実際凪咲だけでなく、俺も感じていた琥珀への怒りを極限まで抑え、出来るだけいつもと変わらないような口調で顔を覗き込む。
「……琥珀?」
琥珀はゆっくり瞬きをして、小さな口を開けた。
「……わかってるよ」
それを聞いた凪咲は怒りが収まらないのか音を立ててスティックをホルダーにしまった。
「わかってなんかないじゃない……」
呟くように言ったつもりだろうが、静まり返ったこの広いレッスン場にはしっかり声が響いた。数秒待った凪咲が、誰からの返事が無いことを確認すると、水を飲み始めてしまった。琥珀は休憩の合図と考えたのか、殺気から逃げるようにベースを置きスタジオの扉へ歩みを進めている。
「リーダー、煙草」
ぶっきらぼうに俺を呼ぶ声は“アイドル 東里琥珀”とは程遠い。ただならぬ雰囲気を感じた俺は焦燥を露わにしてしまった。
「お、おい。ちょっと待てよ」
呼び止めてみたが琥珀は止まらずスタジオを出てしまう。普段は“皐月”と呼ぶくせにこういうときだけ“リーダー”呼ばわりだ。溜息をつき頭を掻く。ふと視界の隅に見えたのは、一人気まずそうにしている操実だ。少し何かを言いたそうにしているが俺には聞く元気もなかった。
「凪咲も行くだろ?」
そう言いながら凪咲を見ると隅にまとめた荷物の中の水を一口飲み、溜息をついていた。おもむろに立ち上がると「行く」と小さな声で俺の誘いに応えた。
いつもなら喫煙所の外まで声が響くほどうるさいのに、今日は静かだ。無理もない、今日の練習で納得のいく演奏がまだ出来ていない。
どる☆ふぇすは俺らアイドルにとって特別なのだ。緊張感を持って練習するのは当たり前なのだ。でもメンバーの気持ちが合わないのはそれ以前の問題だった。
「高水準を目指すならこんな演奏じゃだめだ」
俺はそう呟いて、ふっと煙の混じった息を吐く。凪咲は俺の言葉にこくりと頷き、琥珀を指さして煽るように言う。
「分かってる。でも琥珀がやる気ないから。……こっちは真剣にやってんのに」
凪咲は煙草を一口吸い込み、溜息のように吐き出す。白い肌に重なるように薄い煙が揺れる。
凪咲の台詞を聞いた琥珀は丸い目を細くした。壁にもたれかかり怠そうにしている。
「やる気はあるわ! ……凪咲のリズムが皐月の歌と合わせる気ないんだろ。曲が盛り下がったとき、皐月は感情込めて歌うの知ってるだろ」
確かに俺はラスサビ前の一節や、バラードのAメロはゆっくり歌いたくなってしまう。しかしここで俺の名前を出されると、この喧嘩においてちょっと責任を感じてしまうからやめてほしい。
今日は控えめに返しているが、売られた喧嘩は買って数倍にして返すのがこの男のモットーだ。でも凪咲も負けじと言い返す。だからこの二人は喧嘩が絶えないのだ。
「ドラムに合わせるのが基本でしょ。でも琥珀が勝手に遅くするから狂うの」
「はあ? 曲の盛り上がりで皐月がちょっとペース上げるの知ってるだろ。じゃあ、ペース上げないと合わねーじゃん」
「それは琥珀が勝手に走るからでしょ。楽譜通りのテンポで弾けばいいじゃん」
「お前はホントわかってないな。それはデビューしたてのやつがやることだろ。何こんな初歩的なところでつまづいてんだよ」
ああ、またコイツらの喧嘩が始まったな、と意識の隅で感じた。これは何だあれは何だと言い争っている二人をよそに、俺はこの状況を打破するにはどうすればいいか考えていた。もちろん課題はそれぞれにある。
喧嘩がヒートアップしてきた二人を制さないとダメだ。俺は打破策を開示しようと「なぁ、ちょっとさ」と声を出した。凪咲がなんか言おうとしていたが、俺の声を聞いて飲み込んだようだ。二人の視線を受けて、そのまま続けた。
「俺はレコーディングみたいに淡々と歌うわ」
先生の話を聞く子どものように黙って聴いている二人のうち、赤髪の方を見る。
「凪咲はときどき狂うから基本のリズムを意識してミスしても止まらず続けて。頭でメトロノームを作って、それに忠実になること」
釘を指すように指を差すと、凪咲は拍子抜けた顔をしている。俺の言うことを理解しようとしているせいか、顔まで意識が回っていないようだ。俺は気にせず続けた。
「琥珀は俺だけじゃなくて凪咲と繰実も頼って弾くことを意識して。全体を見るイメージで。二人がそれを出来れば繰実が迷わなくて済む」
白髪の方を見ると、こちらもキョトンとした顔をしている。俺は一呼吸置いた。
「みんな今日の練習で確実に上達してるから、みんなで合わせてこ」
最後の一口を吐き出し、煙が揺れる火種を揉み消した。それを合図に琥珀と凪咲も灰皿に煙草を突っ込む。白いフィルターが三つ並ぶ。俺は立ち上がって、「な?」と同意を求めて二人を交互に見た。琥珀と凪咲は俺へ向いていた視線をゆっくり外し、お互いへ目を合わせた。
「凪咲、怒られてやんの」
まーたコイツは喧嘩の種を撒く。喫煙所から出ようと扉に掛けていた手を離した。
「そういう意味で言ったんじゃないって。勘違いすんなよ」
凪咲にフォローを入れようと振り向き、凪咲の顔を見ると何故か嬉しそうに笑っていた。
「はあ? アンタだって怒られたくせに」
台詞だけ見ると喧嘩を買ったように見えるが、実際はツッコミ程度の言い方だ。この二人の会話は喧嘩なのか漫才なのか判らないとよく言われている。コイツらさっきまで喧嘩していたのに俺が指示出したら上機嫌になりやがった。やはりどMなのか……。
言い返された琥珀はいつものいたずらな笑みを浮かべる。
「俺のは別に怒られたわけじゃないしー」
「いーや、リーダーは琥珀に怒ってたしー」
「おま……、その語尾伸ばす言い方、俺のこと馬鹿にしてるだろ」
「べっつにー?」
「やっぱ馬鹿にしてる!」
さっきの喧嘩とは打って変わり、楽しそうに話している。ピリピリした空気に少し気を使ったが、なんだか意味がなかったようだ。漫才を続ける二人をおいて、呆れ気味でスタジオへの廊下を歩いていると、後ろから二人が子ペンギンのようにひょこひょことついてきた。
「さて、仕切り直しやるぞ」
後ろを振り向かずそう言ってみる。「はーい、リーダー」と凪咲が答えた。
「テンション高くね?」
琥珀が笑いながら言ったので、凪咲が鼻で溜息を付きながら言い返す。
「いつも通りよ」
「へー、昨日の夜のテンションと変わんねーぞ」
「ばっか……! ここでその話やめてよ」
漫才を続ける二人を尻目にスタジオの扉を開けた。
スタジオに戻ると端で座っている繰実がオレンジジュースを飲んでいた。ギターを持ち上げながら「お待たせ」なんて声をかけると、「はーい」と元気な返事が返ってくる。さっき声をかけなかったのを思い出した。良い返事が返ってきたので、これも心配しすぎだったようだ。
スタジオを出る前は不機嫌だった琥珀と凪咲が仲良さそうに話している。その様子を見ながらキーボードベンチに座る繰実の嬉しそうな悲しそうな、そんな表情の意図は解らなかった。
「ご飯買ってきましたー」
茂ちゃんがコンビニの袋を両手に抱えスタジオに現れる。四茂ひとみ、Rock×ON!!!のマネージャーだ。俺らのマネージャーをしているということは、バラバラな俺らをまとめあげるのに相当苦労しているということだ。心中お察しする。
「おっ、サンキュー」
調子のいいこの男は、机に置かれたビニール袋の中を物色している。一つに括った白い髪が、俺の視界を遮るように現れた。
若干気まずさの残るスタジオの空気を変えよう。俺は明るい声を捻りだした。
「どれにしようかなー」
一度持ったギターをゆっくり置くと、コンビニの袋をいくつか開けて見てみる。目の前に凪咲も現れた。
「これ、もらってく」
そう言って凪咲はプリンを取った。物色する手を止めず琥珀は言う。
「いいよー、俺別に食べようと思ってなかったから」
俺も同意のつもりで「ん」とだけ言った。俺らの言葉を聞いた凪咲が繰実のもとに駆け寄った。
「これ、繰実の。好きでしょ?」
なるほど、凪咲が普段食べないプリンをわざわざ手に取ったのは繰実に渡すためだったのか。思い返してみれば、確かに繰実はいつもプリンを取る気がする。俺ら三人が思い思いのデザートをさっさと食べちゃうせいで残り物を食べているようにしか見えなかった。でも実際にプリン、好きだったんだな。
渡された繰実は俯いていた顔を上げ、表情を明るくした。
「やった! ありがと、凪ちゃんっ!」
「いいえー、茂ちゃんが買ったやつだし」
このキャッキャした感じは所謂、女子の会話ってやつか。俺みたいなむさ苦しい男は入らないのが吉だ。
「あいつらって仲良かったんだな」
琥珀が袋の中のサンドイッチを取り出しそう言った。乱暴に袋を開けて手掴みで豪快に食べる俺と同じタイプらしく、口の端にマヨネーズを付けながらむさぼっていた。
「女子同士だからじゃないか?」
空腹が襲ってきたので、琥珀の話は適当にあしらった。ハンバーグ弁当を開け、割り箸を二つに折る。綺麗に割れなかったけど、まあ食べられればなんでもいい。口元のマヨネーズに気が付いた琥珀はペロリと舌を出している。俺は綺麗に舐め取られていくマヨネーズを見ながら言った。
「お前は繰実と仲良くしないのか?」
「んー」
俺の質問に考える素振りを見せた。口いっぱいに含んだサンドイッチのせいで喋れないらしく、飲み込んでから発言した。
「別に? 仲良くする必要もないだろ」
「一応チームメイトなんだから仲良くしてやれよ」
繰実は俺らの関係性からすると特殊だ。高校の部活で既にバンド活動を始めていた俺らとは違い、事務所に入ってからメンバーになった。おかげで繰実とはなんとなく仲良くしづらい雰囲気がある。
「お前は仲良くしてるのかよ」
そう言う琥珀は少し痛い所を付いてくる。正直俺は繰実と共通点がほぼない。未だに彼女に対して他人行儀になってしまっている自覚はある。
「俺は……」
琥珀への返答に困っていると、繰実と一言二言言葉を交わした凪咲が戻ってきた。繰実はずっと入口から遠い隅の方で体育座りをしている。入口付近にある机にたむろする俺らとは物理的に遠い位置に居た。
「凪咲、お前ってあいつと仲良かったんだな」
琥珀はプリンを食べる繰実を親指で指した。凪咲は「んー」と肯定にも聞こえる返事をして、袋の中から自分の食べる物を選んでいる。
軽くお腹を満たすと練習を再開した。俺がさっき注意したところはちゃんと出来ている。誰も曲を止めることなく最後まで演奏出来た。ようやくチームが一つになりかけていた。
――それから俺たちは今までより一層練習に励んだ。そして迎えた本番当日。
* * *
「わあああ! きんっちょーしてきたー! 燃えるねー!」
本番前はまさに、ワクドキでハピキュンな瞬間だ。ちなみに今のは繰実の台詞だ。最近の若い子の発言の意味はよくわからない。これが十八歳と二十二歳の違いってところか……。
それを聞いた凪咲が繰実に笑顔を向け、得意げに話す。
「今まで通りやれば余裕だね。負けることなんてないって」
凪咲が呪文のように祈りを込めて楽屋という場を盛り上げた。
ちなみに本番前の楽屋の緊張感はない。他のアイドルは振り付けの最終確認をして本番への意識を高めている中、俺たちの楽屋は賑やかでリラックスした雰囲気が流れていた。緊張から来る不安でメンバーと喧嘩してしまうアイドルなんてザラにいる。正直最初の一歩であるこのどる☆ふぇすという場で、仲違いという一番くだらないことに時間を費やすというやつにトップアイドルは務まらない。
「うん、そうだね。私楽しみだよ!」
繰実は耳の辺りでお団子にした髪の毛を揺らし、ニコニコ笑っている。両サイドのお団子が第二の耳のように見えてより小動物感が増していた。
繰実と凪咲の会話を聞きながら、琥珀は両手を頭の後ろにやってふらふら歩きまわっている。緊張から落ち着かないというよりは手持無沙汰で思わず身体が動いてしまうという感じだ。ちなみに周知の事実だが、この男はもう手遅れに近い。
「いやー、すれ違う女の子みんな可愛くていいねー。俺一つ一つ楽屋回ってナンパしてきちゃおうかな」
女子からの――特に凪咲の――ツッコミを受け、「ダメ?」とか「今みんな緊張してるから終わってから声かけた方が成功率上がるかな」とかほざいているので凪咲からのグーパンが二回ほどみぞおちに入っていた。
「うわっ、ごめんて」
「こういう大事なときにそんなこと考えないでよ」
「大事なときだから楽しいこと考えるんだろ? ……な? 皐月」
チューニングを終えたギターを置き、俺も三人のそばに寄った。
「そこで俺に話振る?」
「男ならわかるだろ?」
「俺は琥珀みたいに頭の中お花畑じゃないからな」
「はっー!! かーっこつけちゃって! 皐月のそういうキャラ昔から変わんねーよな」
仲間がいなくなった琥珀は、つまらなそうに唇を尖らせる。そんな琥珀の様子に俺は頭を掻いた。
「ま、いつも通り、練習した通りやってれば今年も優勝だな」
俺の言葉にそれぞれメンバーが頷く。
「そろそろスタンバイお願いしまーす」
茂ちゃんの声が楽屋に響いた。
「ん、行こっか」
俺がそう言うと、いつも通り円陣を組んだ。
「Rock×ON!!! 行くぞー!」
「……って俺が言うんでしょ、その台詞! リーダー俺なんだけどー?」
いつもこうだ。美味しい所はだいたい持ってかれる。俺の台詞を奪った犯人は嬉しそうにベースを抱えた。
「皐月が言わないから俺が言ってもいいのかなーって思って」
いや? ぜんっぜん俺言おうとしてたけど? なんならもう口開いてたし。
「俺がリーダーなのにお前が言っちゃうからだろ!」
「もう、しっかりしてよ。リーダー」
凪咲まで……? なんで俺こんなツッコまれてんの……?
「怒る人間違ってるって! 俺じゃなくて琥珀怒れよ!」
凪咲に反論すると、繰実まで参戦してきた。
「リーダー、頑張ろうねっ!」
「ちょっと、繰実まで……」
ツッコミが追いつかなくなってきたところで、琥珀が俺の肩を掴んだ。
「皐月、責任転換はよくないよ? 俺が可哀想じゃん」
「はああああ?」
腑に落ちない、グダグダとした雰囲気のままついに幕が開いた。これもまあ、いつも通りか。この感じだと優勝もいつも通りだな。
「アイどる☆ふぇすティバル! 開幕です!」
司会者の声が響き、歓声が上がる。前回の優勝者はトリを担う。つまり俺たちはこの大会のトリを飾る。このとき誰もが、俺たち「ガールズバンドアイドル Rock×ON!!!」が優勝を手にすると信じて疑わなかった。
「あ、始まったね」
「今年も新人たちを軽ーく捻ってやりますか」
「言うねー」
「まあねー」
「……さて、行きますか」
――全ステージが終了した。結果が全てだ、わかってる。わかっているけど、その結果を見た時、俺らの視界は暗に染まった。
俺たちRock×ON!!!は、「期待の新生アイドルLasting*Laugh*Life!!」という三人組に負け、優勝を逃した。
動画版はこちら!→https://youtu.be/GBmI4_gAll8